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ひびのあれこれ
by happanappamama
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『ぼくの帽子』
このあいだ、入道雲のことを書いていて
もうひとつ思い出したものがあった。

「母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね?」というフレーズ。

むか~し、まだ私が小学生だったころ
角川で映画化された『人間の証明』のCMで
盛んに流れていた。

夏だったんだろうか?

『人間の証明』は本がものすごくヒットして
映画の宣伝にも熱が入っていたんだろうと思うけど
ジョー山中の「ママ~、ドゥユーリメンバー」っていうテーマソングとともに
「母さん、ぼくのあの帽子…」のフレーズも
テレビからよく聞こえてきた。


テーマソングの元でもあったそのフレーズが
西條八十の『ぼくの帽子』という詩であることは
ずっと後になって知った。

子ども心に切なくなる詩だったんだな。



同じような経験が私にもある。

そのころ家族でよく通っていた奥多摩からの帰り道、
母がよく身に着けていたグリーンと茶のスカーフを
弟が助手席の窓からヒラヒラなびかせていて
うっかり手を離して飛ばしてしまったのだ。

弟は「取りに行く」って主張していたけど
その間にも車は結構なスピードで走ってたし
ほとんど人の通らない自動車専用道路のようなところだったので
母が「住所を書いてあるから、きっと親切な人が送ってくれるよ」と弟を言いくるめ
その場を後にした。

うすうす「そんなわけないだろう」とはわかっていたけれど
でも、どこかで「だれか送ってくれればいいな」という期待はやっぱりあった。

私はどうにもモノに魂を感じてしまう質なので
母が身にまとっていたものが
風に飛ばされて手の届かないところに行ってしまうのが
とても辛かったのだ。


その『ぼくの帽子』という詩の一節をテレビで聞きながら
谷に飛ばされた帽子を思うと
泣けてくるような切ない気持ちになってしまうのが常だったから
『人間の証明』のCMは苦手だった。


入道雲と麦藁帽子。

夏のセットだ。




『ぼくの帽子』

母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?
ええ、夏碓氷から霧積へ行くみちで、
渓谷へ落としたあの麦わら帽子ですよ。

母さん、あれは好きな帽子でしたよ。
僕はあのとき、ずいぶんくやしかつた、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき向こふから若い薬売りが来ましたつけね。
紺の脚絆(きゃはん)に手っ甲をした。

そして拾はうとしてずいぶん骨折つてくれましたつけね。
だけどたうたうだめだつた。
何しろ深い谷で、それに草が背丈ぐらゐのびていたんですもの。

母さん、ほんとにあの帽子どうなつたでせう?
そのとき傍で咲いてゐた車百合の花は、
もうとうに枯れちやつたでせうね、
そして、秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。

母さん、そしてきつと今頃は

今夜あたりは、あの谷間に、静かに雪が降りつもつてゐるのでせう。
昔、つやつや光つた、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いたY.Sといふ頭文字を埋めるやうに、静かに、寂しく
by happanappamama | 2008-08-20 16:38 | つれづれ
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